中医学とは?

中医学とは中国の伝統的な経験医学を体系化した医学です。中医学アカデミーで開講している「中医基礎理論」「中医診断学」「中薬学」「方剤学」「中医内科学」の5教科を履修することで、中医学の基礎から応用までを体系的に学べます。

この記事の目次

中医学の元となる二つのロジック

中医学には「弁証」と「論治」という二つの重要なロジックがあります。

弁証とは生理と病理をつなぐロジックです。臨床のための基礎的な知識から成り立っています。緻密な問診、正確な診断、薬剤の知識、適切な方剤、の元となります。

論治とは診断と治療のためのロジックです。弁証によって得られた様々な特徴を元に病気を診断する、臨床のための知識です。

弁証の基礎となるのが「中医基礎理論」「中医診断学」の2教科で、論治の基礎となるのが「中薬学」「方剤学」「中医内科学」の3教科です。これら5教科を理解すれば中医学のロジックが得られます。

弁証論治はなぜ重要なのか?

中医学を臨床で活用するには、その知識を体系化しパッケージとして利用できなければなりません。弁証論治は臨床のためにパッケージ化された中医学知識そのものです。

中医学の各教科は、臨床において弁証論治というパッケージの一部として使われます。そのため全教科の習得が中医学の臨床活用に欠かせません。

中医学の全5教科を習得し弁証と論治のロジックを得ることが、中医学の臨床活用のための最短の道なのです。

中医学(中国漢方)は日本漢方、西洋医学とどう違うの?

中医学とは、古代中国で発展し、哲学的な理論や臨床経験を基に体系化された伝統医学のことを指します。約40年前から日本で日本漢方との違いを明確にするため、「中国漢方」という名称で表現されるようになりました。

日本漢方では

一方、日本漢方は「この症状群にはこの処方」というように方式化されているのが特徴です。この方式化の原点は、2000年前に成立した『傷寒論』や『金匱要略』にあります。その診断と治療法の特徴は症状を重視する点にあります。日本漢方では、患者の体質や全体的なバランスよりも、目の前に現れる症状群に焦点を当て、それに基づいて適切な処方を決定することが主なアプローチとなっています。

これは、中国医学の弁証論治のように、病気の原因や全身の調和を診断するのではなく、特定の症状に対応する処方を迅速に選択することを重視していることを意味します。日本漢方の実践は、患者の症状に即した治療を効率的に行うことを目的としており、これが日常診療において実用性を追求した日本独自の医療体系として確立された背景となっています。

例えば、寒がり、発熱、無汗、脈浮緊といった一連の症状があれば、麻黄湯を投与する、というような決まりがあります。

中医学(中国漢方)では

それに対して、中医学(中国漢方)は、『傷寒論』や『金匱要略』に示される症状の病理や病因を掘り下げて発展したもので、「証候」と「病名」の概念を導入し、症状の根本的な病理に基づいて治療を行うのが特徴です。この活動を「弁証論治」といい、表面的な症状だけでなく、根本的な病理や病因に目を向けて治療を行います。中医学では、例えば麻黄湯を処方する前に、風寒が表にあり、正気が十分で、衛気が風寒に抑えられ詰まっているという病理を判断する必要があります。このように、中医学では、同じ病気でも体の内部で異なる病理・病因に対して治療を行うのが特徴です。

西洋医学では

一方、西洋医学は解剖学、化学、物理学、動物実験などを通じて病気のメカニズムを明らかにしており、精密検査によって理論の進展を繰り返しています。病気の原因や病理を明確にすることには優れていますが、次のような特徴もあります。第一に、同じ病気であれば個人差をあまり考慮せず、治療方法がほぼ同じであること。第二に、診断や病因が明確であっても治療法や治療薬がない場合があること。そして第三に、検査で異常が見つからない場合、症状があっても診断や治療ができないことです。

中医学と日本漢方、西洋医学との違いまとめ

これに対して中医学は、体全体の陰陽のバランスや臓腑の相互関係を重視し、不調の原因を捉えて整えることを目指します。また、目の前の症状だけでなく、病気の変化や進展を予測し、悪化を防ぐ「既病防変」に力を入れます。養生面では、その人の生活リズム、季節の変化、食習慣、病歴などを総合的に把握し、「未病」の状態でのケアを徹底するという特色があります。

中医学の考え方

中医学の基本的な考え方には、「弁証論治」と「未病先防」、そして「整体観念」があり、これらは病気の診断と予防において重要な概念です。これにより、中医学は患者の「証候」に基づいた個別的で効果的な医療を提供し、全体の調和を目指しています。

整体観念

まず、「整体観念」とは、中医学の独自の視点であり、人の体と自然界が一体であると考え、体全体の調和を重んじることを指します。人体は各器官や臓腑が相互に関連し合い、気(エネルギー)や血(血液)が順調に流れることで健康が保たれています。また、外部の環境や気候変化も体に影響を及ぼすため、こうした変化に対応しながら全体を整えることが重要視されます。

弁証論治

次に、「弁証論治」は、中医学における診断と治療の基本的な考え方で、単に症状に応じて薬を出すのではなく、患者の「証候」(体内の状態や病気の性質を示す指標)に基づいて治療を行うことが特徴です。証候とは、患者の状態を詳しく分析し、体内のどの部分に不調があるか、またその原因が「寒」や「熱」といったどの要素に関わるかを明確にしたものです。同じ風邪の症状でも、冷えが原因の「風寒感冒」と熱がこもる「風熱感冒」では異なる証候とみなされ、それぞれに異なる治療が行われます。「風寒感冒」では体を温める生姜湯が用いられ、「風熱感冒」には体を冷やす菊花茶が適しています。このように「弁証論治」は、患者の具体的な証候に合わせて治療法を調整するアプローチであり、より効果的で個別化された治療が可能になります。

未病先防

さらに、「未病先防」は、病気になる前の段階で予防を行うという考え方です。未病とは、まだ病気ではないものの、証候の乱れにより体が不調に傾きやすくなっている状態を指します。中医学では、日常の生活習慣や食事、運動を通して、この「未病」の段階で証候を整え、健康を維持することが重要とされています。例えば、季節の変わり目には体温調整が難しくなるため、体を温める食事や栄養豊富な食材で免疫力を高めることが推奨されます。また、春には肝が影響を受けやすく、酸味のある食材を摂取して肝機能のバランスを整えるとよいとされています。

中医学の考え方のまとめ

中医学は、「整体観念」「弁証論治」「未病先防」に基づき、単に症状を抑えるのではなく、証候をもとにしたアプローチを通して、体全体のバランスを整えながら健康を維持することを目指しています。したがって、中医学の学習の中心は、弁証論治における分析方法、治療の要点、処方の選択基準などにあると考えられます。

このページの著者

董 巍(とう ぎ)

中医学アカデミー長、世界中医薬学会連合会常任理事、中医薬学会連合会理事長、中医師

経歴: 1959年生まれ。 遼寧中医薬大学卒業後、大連第三人民病院内科学中医内科で医師として勤務。 1990年に日本へ来日し、日本医大丸山ワクチン・薬理教室の客員研究員を務める。 その後、日本中医薬研究会の講師を経て、特定非営利活動法人「中医薬学会連合会」を設立し理事長に就任する。翌年には中国 世界中薬学会聯合会常任理事も兼任。 2011年に世界中医薬学会聯合会認可のもと中医学アカデミー を設立し、国際中医師の育成と中医学の普及に力を注いでいる。