中医学の勉強法・学習科目

中医学の勉強法

学校や大学での学習

中国で中医学を学ぶ最も体系的な方法は、専門の学校や大学での学習です。これらの教育機関では、理論から実技まで総合的に学ぶことができ、臨床経験も積むことが可能です。残念ながら日本には公式な中医学の大学が存在しないため塾や専門の教育施設で学ぶことができます。

独学での学習と教材選び

独学で中医学を学ぶ際は、教材選びが非常に重要です。『黄帝内経』や『傷寒論』などの中医学の古典を学び始める人もいますが、基礎理論がしっかりしていないと、これらの内容は難解で誤解を招き誤った理解のまま学習をすすめる可能性があります。

初心者には、個人的な見解に偏った中医学の本よりも、大学教材や信頼性の高い学術書を使うことをお薦めします。大学教材に準じた、基礎理論、中医診断学、中薬学、方剤学、内科学などの内容から学び始めると、より理解しやすく、正確な知識を身につけることができます。

中医学の独学

社会人で学校に通えない状況でも、中医学を学ぶ方法はいくつかあります。効率的に学ぶために、以下の勉強方法を活用してみてください。

オンライン講座や通信教育

中医学を学べるオンライン講座や通信教育は自分のペースで学習できるのが大きなメリットです。

  • オンライン講座: 中医学の基礎から応用まで、さまざまな質の高い授業を受けられます。例えば、本科講座(リンク)です。紙媒体のテキストを読んで、システムから提供されている動画の視聴後に、システムに提供される練習問題にトライする。
  • 通信教育: オフラインで宿題や教材が届き、テキストと課題を通じて学習できる方法です。試験や資格取得を目指す人には向いています。

専門書や教材の活用

中医学の専門書や教科書を購入して独学するのも一つの方法です。

  • 基礎の教科書: 「中医学概論」「中薬学」「方剤学」などの基本的な教材をまず学びます。
  • 参考書や論文: 最新の研究論文や専門書を活用し、現代の臨床応用や研究動向にも触れると良いです。
  • 辞典: 中医学の専門用語や概念が難しい場合、辞典や解説書を使って調べながら進めます。

指導者につく中医学の学習

指導者についての中医学の勉強というのは、伝統的な学習方法であり、特定の師(中医学の専門家、医師、教師)に師事して知識や技術を学ぶことを指します。中医学において、指導者からの直接指導は歴史的に重要な役割を果たしてきました。これは、書物や学校だけでは得られない実践的な知識や経験を学ぶための大切な方法です。

中医学における「指導者からの学び」の特徴について

臨床実践の重要性

中医学は理論と実践が密接に結びついているため、指導者から臨床経験を学ぶことが重要です。指導者と一緒に診察し、患者の治療を行うことで、実際の病態や治療方法を体得します。

古典的な知識の伝承

中医学の基礎は『黄帝内経』や『傷寒論』といった古典に基づいていますが、これらの知識は実践において活用される際に、指導者からの解説や指導を通じて深く理解することができます。古典の中の細かいニュアンスや具体的な応用法は、指導者からの直接の指導でなければ、中々得られないようです。

指導者の治療哲学や経験の学び

中医学は個々の患者に合わせたオーダーメイドの治療が重視されます。そのため、指導者の治療哲学や、どのように診断や治療を決定していくかという「思考プロセス」も非常に重要です。これは実際の経験を持った指導者の判断を通じてしか学べないことが多いです。

個別の指導とアドバイス

指導者から学ぶことの大きな利点は、個別のフィードバックやアドバイスを受けられることです。自分の弱点や強みを把握し、効率よく学習を進めるために役立ちます。また、指導者が適切なタイミングで高度な内容を教えてくれるため、学びの深さが増します。

現代の中医学学習における指導者の役割

現代の中医学教育においても、指導者の存在は非常に重要です。中医学は伝統的に、理論と実践を密接に結びつけた学問であり、指導者から直接学ぶことは実践的な技術や深い知識を得るために不可欠です。

多くの学生は中医学の学校や大学で基礎を学んだ後、臨床現場での実践的な経験を積むために個別の指導者に師事します。これは、中国の伝統的な「師承制度」と呼ばれるもので、現代でも重要視されています。

近年では、オンライン指導やセミナー、研修会などを通じて、直接師事する形以外にも学ぶ手段が広がっています。特にオンライン学習の発展により、特定の中医師や中医の専門家から遠隔で指導を受ける機会も増加しています。

良い指導者をみつけるには

中医学の指導者を見つけるためには、いくつかの方法があります。以下に一般的な方法を挙げます。

中医学の学会やセミナーに参加する

学会やセミナーでは、理論土台を持ちながら、臨床経験が豊富な中医師と出会うことができるため、直接的な人脈を作る良い機会となります。積極的に質問や相談をすることで、指導を依頼するきっかけが得られるかもしれません。

中医学のクリニックや病院で働く

臨床現場で働きながら、中医学の専門家とつながりを持つことも一つの方法です。特に大規模な病院や有名なクリニックでは、経験豊富な医師が在籍しており、臨床を通じて教えを請う機会が得られるでしょう。

中医学の教育機関での講師に相談する

中医学の専門学校や大学で教鞭を執る講師に相談するのも有効です。講師は豊富な知識と臨床経験を持ち、弟子としての指導を行っている場合も多いため、信頼できる指導者を見つける機会が得られます。

まとめ

中医学において、指導者を通じて学ぶことは、深い実践的な技術と知識を身につけるための重要なプロセスです。指導者の存在は、学んだ理論を実際の臨床にどのように応用するかを具体的に教えてくれるため、独学では得られない視点やスキルを習得することができます。

また、指導者から直接フィードバックを受けることで、自分の理解を深め、課題を克服する手助けをしてもらえます。これは、中医学のように複雑で多岐にわたる分野では特に大きなメリットです。長い歴史を持つ中医学の学びは、単なる知識の蓄積にとどまらず、実践の中で磨かれるもの。そのため、指導者のもとでの学びは、将来の実践において非常に重要な役割を果たします。

これにより、現代における中医学の学びにおいて、指導者の重要性や指導者を見つける具体的な方法、そしてその学びの価値について、より具体的かつ充実した内容となりました。

中医学の学修科目

中医学の基本学習内容は下記の5教科です。この中で、理論の大きな土台になる教科が中医基礎理論と中医診断学、中薬学と方剤学の二組に分けられます。また中医内科学はこれらの教科の集大成として病証への治療方法を学習します。

1.中医基礎理論

中医基礎理論は中医学を理解するための基礎を学び、症状を推定する能力を高め、中医学の世界を理解するための重要な一歩になります。 身体の正常な状態と病気の原因を理解することによって、病気と症状の分析が可能になります。

基礎理論は生理状態の不具合によって生じる何等かの症状を予想する力を身につけるものです。臨床に必要とする病気の状態を理解する前に、まず正常な生理状態を把握しなければなりません。

一言で言えば、正常な生理状態を深く理解すればするほど、病理状態でどのような症状を引き起こされるかを推測する能力が高くなります。
正常な生理状態を理解するには、まず中医学の専門用語を正確に把握する必要があります。
従って、中医基礎理論を勉強するコツの一つは中医学の専門用語の理解に力を入れるということです。

陰陽、虚実、表裏、寒熱、気血津液、中医学が定める臓腑の働きと其々の関係などは、中医基礎理論の根幹を成す内容であり、中医学のエッセンスがこの中にたくさん含まれています。

2.中医診断学

中医診断学は病気の本質の理解と判断力を学びます。症状の特徴を通じて病気の本質(発生原因・発生機序・発生部位・病気の程度などで、病因病理ともいう)を見出す学問です。学んだ診断方法で病気の本質を正確に掴むことができれば適切な治療を施すことができ、また誤った治療を防げます。

中医診断学の柱は、四診と弁証です。 四診は望診、聞診、切診、問診の4つの方法を用いて、一つの症状に対して、裏に潜んでいる病因病理を掘り出します。 四診は、舌の状態の他に顔色や姿勢などを観察する望診、声の大小や咳の音などを聞く聞診、脈をとる切診、症状などを尋ねる問診を指し、これら四診を通じて症状の特徴から病因病機を判断し、治療原則と治療方法につなげていきます。

例えば、食欲不振を訴える場合には、胃気虚、胃熱、肝鬱、痰湿、胃陰虚などのタイプがあり、食欲不振の特徴と随伴症状を通じてその病因病理を掴み治療原則と治療方法を立て、相応しい漢方方剤を選べるようになります。 従って、食欲不振の病因病理を掴む目的は、正しく治療原則と治療方法を設けるためです。

四診による作業は中医基礎理論の推測力とは逆で、基礎理論と診断学の両方の教科が身に付けば、弁証の力が身につきます。

従って、診断学を勉強するこつは一つの症状の裏に何かの原因があるかを理解する上で覚えることです。中医学では、発生する一つの症状の原因は一つではなく、必ず幾つかの原因が潜んでいると考えています。

3.中薬学

漢方薬に配合する薬味を学ぶ教科です。中薬学は、方剤学の土台になり中医学での治療の重要な手段の一つになります。

中薬学には総論と各論があり、総論では中薬(生薬)の帰経、性味、配合理論と配合特性などの基本理論を学び、各論では、それぞれの中薬の一味の特性を理解することから始まり、方剤の構成や適切な漢方薬物の選択、必要に応じて方剤の加減などを施す土台を養います。
中医薬大学のテキストでは、概ね20種の分類があり、中薬がどの種類に属するか、性味と効能効果の特徴の理解に力を注ぐことで、複雑な病態への対応力が培われ臨機応変に漢方薬を生かすことに繋がります。

4.方剤学

適切な薬味の組み合わせを学ぶ教科です。
複雑な薬理作用を持つ生薬を組み合わせることで、病態を改善し根本的な治療に導くために薬味の適切な運用と構成割合を学びます。 また、次の教科の中医内科学(臨床学科)を学び臨床で活かす上で土台となる教科です。

中医弁証論治は、主に「理法方薬」の四つの部分で形成されています。
理は、中医理論に従って病気の発生する病理機序を解釈すること、法は四診などの診断方法と相応の治療法則を指し、方とは治則と治法に従い最も相応しい方剤を選択すること、薬とは、方剤の君臣佐使の配合と使用量を最適な選択することを言います。
したがって、「理法方薬」とは、中医理論に従い病因病理を明確的に説明し、その病因病理に効果的に対応できる治則と治療方法を決めて、次に適切な方剤と中薬を選択する一連の作業を指します。

従って、方剤学は論治に属する内容です。治療の手段です。
方剤学の理論を身に付けるために、注意点は主に三つあると考えられます。
1. 配合理論と先人から伝わる配合の実例を理解し覚えます。
2. 方剤の効能を病因病理及び症状群と関連付けて覚えることです。
3. 方剤がどの分類に属するのかを繰り返し確認します。

5.中医内科学

漢方治療の実践である「弁証論治」が行えるよう学びます。
中医内科学は、中医基礎理論、中医診断学、中薬学、方剤学の集大成です。漢方の実践治療を行うにはこれらの科目によって弁証論治の土台を構築する必要があります。

中医内科学の学習では、まず病名を正しく理解し、同時に病因病機、証候型、治法、代表方剤を学びます。これらの内容が理解できると正しい弁証論治に繋がります。
弁証と論治を身につけるためには、中医内科学と同時に更に中医基礎理論、中医診断学、中薬学、方剤学を復習する必要もあります。

また、中医内科学は、皮膚科、婦人科、外科、小児科の土台であり、中医内科学がわからなければ婦人科、外科、小児科などの理解は進みません。
このような学習の積み重ねで病状及び体質に合わせて、正確に病名と病証の診断及び適切な漢方処方を選択する能力が養われます。

このページの著者

董 巍(とう ぎ)

中医学アカデミー長、世界中医薬学会連合会常任理事、中医薬学会連合会理事長、中医師

経歴: 1959年生まれ。 遼寧中医薬大学卒業後、大連第三人民病院内科学中医内科で医師として勤務。 1990年に日本へ来日し、日本医大丸山ワクチン・薬理教室の客員研究員を務める。 その後、日本中医薬研究会の講師を経て、特定非営利活動法人「中医薬学会連合会」を設立し理事長に就任する。翌年には中国 世界中薬学会聯合会常任理事も兼任。 2011年に世界中医薬学会聯合会認可のもと中医学アカデミー を設立し、国際中医師の育成と中医学の普及に力を注いでいる。