神農本草経(しんのうほんぞうきょう)は25~220年ごろに伝説上の帝王「神農」が編纂したと伝えられる中国最古の薬物学書です。豊富で深い薬物理論が含まれており、薬学の理論的枠組みが築かれました。
『神農本草経』とは、どのような書籍か?
『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)は、中国最古の薬物学書で、後漢時代(25~220年)に成立したとされる。伝説上の帝王、神農(しんのう)が編纂したと伝えられるが、実際には後漢時代の学者たちによってまとめられたと考えられています。また、本経(ほんきょう)、本草経(ほんぞうきょう)と略称します。
『神農本草経』には、豊富で深い薬物理論が含まれており、それによって薬学の理論的枠組みが築かれました。この内容は序録部分(序論)に主に記されており、全書の総論に相当する。文章自体は短く、わずか十三条しかないが、すでに薬学のあらゆる側面を網羅しています。
主な内容
『神農本草経』には、365種類の薬物が記載され、それらを効能別に3つのグループに分類しています。
- 上品(じょうほん):主に滋養・補養を目的とする薬物で、副作用が少なく、長期服用が可能。例:人参(にんじん)、霊芝(れいし)、甘草(かんぞう)など。
- 中品(ちゅうほん):治療効果があるが、体質に応じた調整が必要で、慎重に使用するべき薬物。例:麻黄(まおう)、葛根(かっこん)、当帰(とうき)など。
- 下品(げほん):強い薬効を持つが、副作用があり、急性疾患の治療や短期間の使用に適していますが、長期間の服用は避けるべき。例:附子(ぶし)、大黄(だいおう)、狼毒(ろうどく)など。
方剤の配合理論の確立
方剤の配合理論の確立について主に二つの内容があり、七情(しちじょう)と君臣佐使(くんしんさし)です。
薬物配合の七情の概念
『神農本草経』では、薬物同士の関係を七種類に分類しています。それらは単行(たんこう)、相須(そうす)、相使(そうし)、相畏(そうい)、相悪(そうお)、相反(そうはん)、相殺((そうさい))です。『神農本草経』では、これらの配合種類を「七情」という。七情を適切に組み合わせて処方を調整することが求められます。これを「七情和合(しちじょうわごう)」の原則としてまとめています。
薬物配合の君臣佐使の概念
『神農本草経』では君臣佐使の原則を提唱しています。君臣佐使とは本来、社会における異なる階層の成員を指し、それぞれ異なる役割や地位を持つものだが、薬学においてはこれを応用し、薬物の組み合わせにおける異なる役割を説明しています。処方を組む際には、薬物の特性を十分に考慮し、処方の中に君薬や臣薬だけでなく、補助的な役割を果たす佐使薬も含めるべきと提唱されております。その比率については、例えば「一君、二臣、三佐、五使」または「一君、三臣、九佐使」の原則で処理することが推奨されています。
中医学の発展における役割
『神農本草経』は、後の中医学や薬学の発展において極めて重要な役割を果たした
本草学(薬学)の基礎を築いた
中国最古の薬物書として、本草学(薬学)の基本的な枠組みを確立した。
医薬の分類法を確立
薬物を「上品・中品・下品」に分類する方式が、後の薬物学に影響を与えた。この分類法は、現代中医学の補薬・治療薬・劇薬の概念につながっています。
漢方薬の基礎理論に影響
『神農本草経』の記述は、後の傷寒論や金匱要略といった医学書にも影響を与えました。これにより、漢方薬の処方や組み合わせの基礎が形成されました。
日本や朝鮮の医学にも影響
奈良時代の日本に伝わり、日本の古代医学書『医心方』にも影響を与えました。朝鮮の伝統医学や、東アジア全体の医学体系の基盤となりました。