中医学でいう五臓六腑とは、肝・心・脾・肺・腎 の五臓、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の六腑のことを言います。
これらは現代医学と同じ表現が使われていますが(三焦は現代医学にはありません)意味合いは少し異なります。その中でも重要な五臓についての働きを以下に紹介します。
五臓六腑の働きを深く理解することは、病因病理に対しての分析能力を養成する為に不可欠です。各々の臓腑の機能が失調し病理の状態になると、どのような症状が出てくるかを推測する能力の養成に繋がります。
■肝
中医学では肝臓の働きは主に以下のように考えています。
・感情などの精神活動がスムーズに行えるように制御します。
・精神的にイライラ、落ち込み、情緒不安があり、また自律神経が乱れて胃腸と肺の症状も見られます。
感情的に落ち込むことは肝の疏泄が不足する状態もあれば、抑えられる場合もあります。血行や気の流れが制御されると血行不良の瘀血、ため息、胸、腹部などに張りが生じます。
血行不良をひきおこす原因は多く、なかでも肝に関与する場合は、気機(気の流れ)を疏通する働きが妨げられることで生じます。
肝は血を貯蔵し、その血液で皮膚、筋肉、筋(すじ)と目を栄養します。
肝に障害があると、出血、痙攣、しびれ、足がつる、爪がもろくなり剥がれやすくなったりします。
■心
精神活動の主宰者。
心は精神的な活動を主宰しています。この働きが弱まると、不安・不眠・情緒不安・焦燥感など精神面での症状が現れるのと同時に、動悸が起こります。
例えば、動悸を招く原因は多くありますが、心の主神の意味を深く理解するとで動機のメカニズムをつかめるようになります。
心には血を全身に行き渡らせる働きがあります。これは血の流れを押す力の根本です。故障すると、瘀血などの病気が生じます。
例えば、瘀血の原因は多く、心の主血脈の働きの故障による瘀血もあれば、気滞による瘀血もあります。どのように鑑別するか、主血脈の働きのメカニズムを深く理解すると瘀血への対応が分かるようになります。ただ覚えるだけでは弁証論治の力にはなりません。
■脾
・消化吸収の働き。
消化と吸収の違いは何か、栄養の吸収に脾のどの効能が欠かせないか、この効能がどのようにして実行しているかを説明しています。
このメカニズムを深く理解することで、六君子湯と補中益気湯の鑑別使用ができるようになります。
・水分代謝の働き。
水分は廃水もあれば、栄養の水(津液)もあります。
廃水の排出する仕組みは脾との関係が何か、脾はどのように働くことで津液を作るかなどのメカニズムを理解して、脾の働きの故障による病理状態が分かるようになります。
・食事から作った栄養物質を身体全体に行き渡らせる働き。
吸収した栄養物質はどのように体全体に行き渡らせるか、肺の協力が必要か、脾の昇清作用は何かの役割があるかなどを、アカデミーの本科講座では、詳しく説明しています。
このメカニズムが分かるからこそ、脾の病気でなぜ疲れやすい、無力感、眩暈、精力の低下など生じるかを深く理解して、参苓白朮散と香砂六君子湯の使い分けなどが分かるようになります。
こられの生理的、病理的なメカニズムのコンテンツが弁証論治のレベルアップに欠かせないと言われています。
・血液が血管から漏れ出ないようにする働き。
出血の場合、どの状況では、脾と関与するかを判断するために、統血作用の特徴を理解することが不可欠です。
・肌肉をつかさどる。
筋肉の病気では、無力感、筋肉の質的低下などがあり、それらの原因は気血不足、腎虚、脾の病気などです。脾と関与する筋肉の病気のメカニズムがわかるからこそ、帰脾湯と十全大補湯の鑑別使用ができるようになります。
脾の故障でなぜ食欲が無くなったりお腹を下しやすくなるのか。太りやすくなるなどの症状に補脾の方法が効く場合と、効かない場合がありますが、その違いは何なのか。その根っこがどこにあるかなどの疑問を解消できるよう、教材を作成しました。
たとえば、脾は食べ物を消化吸収して気血を作り、それを体全体に運ぶ働きを担っています。いわゆる低代謝の状態とも言いますが、でも、栄養物質を行き渡らせる働きが弱まると体の各部位までしっかりと栄養を届けることができなくなり、例えば頭部に栄養がしっかり行かなければ頭がぼーっとするなどの症状が現れたり、体幹部はしっかりしているのに比べて足が細いといった体つきになったりすることもあります。
また、水分代謝が上手くいかないと痰が出たり、むくみが出たりするなどの症状があらわれます。血液が血管から漏れ出ないようにする働きが弱まれば内出血や鼻血が出やすくなります。「ぶつけた覚えはないのに気がつくと手足に青あざができていることがよくある。」そういった方は脾の働きが弱っていて血液が漏れ出やすくなっている可能性があります。
脾は肌肉をつかさどる、というのは皮膚や筋肉がたるまないようにハリを保つ働きのことをいいます。この働きが弱まるとシワやたるみが出来やすくなります。
■肺
・呼吸をつかさどる。
呼吸の吸いと吐きのバランスが肺によりコントロールされます。このバランスが崩れると、呼吸困難、咳、痰などの症状が生じます。
・気をつかさどる。
全身の気の働きを主ります。呼吸の状態が故障すると、全身の気が弱くなったり、停滞したりすることになります。
・宣発と粛降。
宣発は「せんぱつ」、粛降は「しゅくこう」と読みます。
宣発は排泄すべき気を出し、全身に栄養をめぐらせる、気と津液などを上に持ち上げて全身に巡らせるなどの役割があります。
粛降は空気を吸い込み、気と津液を下へ下ろす、腎を補うなどの役割があります。粛降と宣発のバランスが良いと、「気を主る」働きは正常に行えます。
その気は主に「宗気(そうき)」を指します。
「宗気」は空気中から清浄な気をとりこみ、脾が消化吸収して作った栄養(水穀精微という)と混合させられる気です。宗気は呼吸を主り、「心拍運動を調整する」「気血のめぐりを促進する」といった働きがあり、また「発声のエネルギー源」でもあります。そのため肺の働きが弱くなると、宗気が正常に作られなく、呼吸器系や循環器系に症状が現れるようになるのです。
・水道通調作用
体に流れた津液を正常に流れるようにするという働きです。また体に余分な水分を腎臓に送ることで体外に排出させるように協力します。
・皮毛に合し、鼻に開竅する。
肺の状態は皮膚に反映されます。肺の働きが故障すると汗の異常、皮膚の乾燥、皮膚の病気など症状が現れます。鼻は肺の窓口で、鼻の病気は肺に深く関与するのです。
・肺は免疫にも関わる
外界の細菌やウイルスが多く存在していますが、なぜ病気がかからないですか。それは肺の免疫の力によるものです。その免疫力の源は衛気です。衛気は肺の宣発により全身をめぐられ、細菌とウイルスから体を守ります。
■腎
・精を貯蔵する
先天の精と後天の精を含みます。
先天の精は両親から受けついた精気です。後天の精は脾で食物から消化吸収される精気です。
・生長・発育をつかさどる。
精気は体の成長、発育、生殖の機能の充実に直接に関わります。子供の発育及び知能に直接に関与し、先天的な病、老化と共に障害が出てきます。
腎が弱いと子供の成長が遅かったり、女性では生理機能のトラブルとして生理不順、無月経、不妊などが現れます。
・骨や骨髄を司り、脳を養う。
骨と骨髄は腎精により変化したもので、脳みそは骨髄の集まりという考え方です。年齢とともにこの腎に貯蔵した精気が少なくなります。そうすると骨が弱って骨粗鬆症になったり脳をしっかり栄養できずに物忘れが出てきたりします。
・尿道・生殖器・肛門を管理する。
腎に貯蔵する精気は二便の正常に欠かせないと共に、特に生殖器の働きに直接に関わります。
精気が不足すると、排尿困難、尿漏れ、夜間尿頻尿、下利か便秘、不孕、生理のトラブル、インポなどの症状が起きてきます。
・水分代謝の総括。
全身の水の代謝は腎の働きを土台にして行っています。この働きを「主水(しゅすい)」というのです。肺臓の通調水道、脾の水の運化という働きの土台は主水です。
・呼吸の働きも持っている
主に空気を吸い込むことを協力する働きである。中医学では納気(のうき)と言います。腎精が不足すると、深く吸い込めないような呼吸困難が生じます。